『絵本』考察 ―母の日に捧ぐ譚詩曲―

☆『絵本』とは?
 初出は2014年9月24日発売の『THE IDOLM@STER LIVE THE@TER HARMONY 03』(いわゆるLTH03)に収録された、北沢志保(CV雨宮天)二曲目のソロ曲。

 公式プロフィールにおける「趣味:お気に入りの絵本を探すこと」に端を発するバラード曲で、志保の内面が多分に描かれた一曲となっています。

 本家グリマスこと『アイドルマスター ミリオンライブ!』内でのカードイラストでは、2015年12月22日~12月31日に開催された「年末の風景3」ガシャにて『ゆったりゆず湯 北沢志保』の覚醒カードとして実装されました。

 スキル名『とり戻した想い』、及びカードテキスト『もう、知っています。私は何かを守っているつもりで、ずっと守られていた。大切に…。私、ちゃんと笑えてますよね? …よかった。』はPにとっても感慨深い内容です。


☆志保の家庭環境
 志保Pにとっては既に周知の事実となっていますが、志保は母子家庭に育ち、母と弟の三人暮らしです。この辺りの事実と考察はグリマスからの先達のPの方々がまとめてくださっているので、割愛させていただきます。

 それも面倒だという諸氏には、ミリシタの「北沢志保メモリアルコミュ1」及び『静かな闘志 北沢志保』の覚醒エピソードが志保のおかれている境遇を分かりやすく端的に表しているので、こちらを参照されたい。


☆『絵本』の詞と「志保」の心
 いよいよ本題です。
歌詞を順に追っていきながら、注釈を付け加える形で考察を進めていきます。


“信じていたの 小さな頃に
絵本の中にいたお姫様は強いもの”

 前出の「北沢志保メモリアルコミュ1」内でも志保自身が述べている通り 、此処で言う『お姫様』とは、志保にとって将来(14歳時点で)「=アイドル」であり、「憧れの存在」。いわば『自分が目指すべきもの』(=強い人)へと変わっていく。
 しかし「信じていたの」と過去形で語られているように、それが「偶像であったことに現在は気付いている」伏線が張られていると解釈できます。


“守られること 守りたいこと
夢なんて見るだけじゃ いつまで経っても叶わない”

 志保にとって大切なのは、母と弟。つまり家族です。
「守られること」が母に育ててもらっていることを指しているなら、「守りたいこと」は母と弟(=家族)であると解釈できます。
「夢なんて見るだけじゃ~」からの一文は、さしずめアイドルとしてのスタート地点に立つことへの決意、ないし覚悟の表れと言えるでしょう。


“守るべきものがあって わたしは強くなりたいから
笑うことをやめたの すべてが叶うその日まで”

 一行目はそのままの意味です。
家族のために、自身が自立しなければならないと考えている志保の思いと合致します。
 二行目は「もう時間がないんです!」「話してる時間があったら、練習しないと……。」などの一連のセリフに表されるように、志保のストイックなまでのアイドル(=目指すべきもの)への姿勢、と捉えることができます。


“独りよがりとだれかが笑う
聞こえないふりしてぎゅっと拳を握るけど”

 此処で言う「だれか」とは、志保自身の声と取れます。
志保は頭のいい子ですが、同じくらい臆病な子でもあります。

 がむしゃらにレッスンを重ね、たった一人自分自身の力でトップアイドルを目指すことがどれだけ困難な道のりであるか、志保自身薄々自覚しています。
 気付いた上で、自分はできる、やらなくてはならないと自らを奮い立たせ、ストイックにレッスンに打ち込まないと自分自身を保てない。

「ステージに上がる時は、いつも怖くて震えてます」というグリマス内イベントでのセリフや、劇場版で初めてアリーナを見渡した際の気圧された表情からも読み取れます。
 それくらい、志保は決して強い子ではありません。


“でも本当は気付いてた わたしはどこで間違えたの?
強く握りしめすぎて 大事なものを壊してた”

 志保が目指した『強いお姫様』(=目指すべきもの)は一人の力で成し遂げられるものではありません。
 そこにはっきりと「間違いだった」と気付けたのは、「アイドル北沢志保」としてPや社長、小鳥さんや美咲さん、他のアイドル達とともに歩んできたからでしょう。
 此処で言う「大事なもの」とは、意識的にせよ無意識的にせよ、見ないふりをしてきた、それらの事実(アイドル達と協力し助け合うこと)、ないし価値観と言えます。


“長い旅の途中でこれ以上独りじゃ進めない
迷子のように立ち尽くした わたしにそっと微笑んだ”

 様々な経験を経て、一人の力では成し得ない事実を突きつけられた志保。
 それでも、周囲の人々は志保を一人にはしておきません。Pやアイドルの仲間達は、そんな志保にそっと手を差し伸べてくれた(ように志保には思えたのでしょう)。


“守るべきものにあって 独りじゃ強くなれないこと
笑うことを思い出した 絵本の中で見た笑顔”

 此処で言う「守るべきもの」は、これまでの一個人の北沢志保が「守るべきもの」とは異なると考えられます。アイドル北沢志保は新たな「守るべきもの」に出逢ったことで、志保の「守るべきもの」は家族と、そしてアイドルとしての仲間達(自身やPも含まれる)に変わった、と読み取ることができるのではないでしょうか。

 こうして志保は新たな視点を見つけ、当初の『強いお姫様』(=目指すべきもの)が一人の力で成し得たもの、という偶像に気が付きました。此処で志保は『真のお姫様』(=トップアイドル)への道筋をつけることに成功したのです。


雨宮天にとっての『絵本』
 以上のことから、『絵本』という曲は志保の内面が多分に描かれているどころか、志保の心理的成長ストーリーだった、と言っても過言ではないように思います。
 この曲を作ってくださった作詞家さん、作曲家さんは神かと思っちゃいますね。志保のことを深く理解していなければ作れるものではありませんから。

 それは志保のことを「運命共同体」と表現する雨宮天さんも同様です。
 最後に「アイドルマスター ミリオンライブ! 2ndLIVE ENJOY H@RMONY!!」Day1の雨宮天さんのラストMCにおけるコメントを抜粋し、締めとさせていただきます。


雨宮天さん
「はーい、北沢志保役の雨宮天です。ありがとうございます。いやぁ、真っ白でしたねー!ふふっ、すごい! 本当にありがとうございました。あ、LVの会場も真っ白でしたかね? きっと真っ白だったんでしょうね! ありがとうございます。
今日はあの、絵本という歌を歌わせていただいて、絵本という曲は志保さんの気持ちがたっぷり詰まった曲だなと思うし、しかもこの会場すごく広いので、物凄く緊張していたんですけれども、真っ白な綺麗な景色にたくさん勇気をもらいました。
だからもし皆さんに少しでも志保さんの気持ちが届いていたらなぁと思うんですが……(歓声) あ、良かったぁ!! あー、ありがとうございます。
本当に今日はトロッコに乗ったりして、皆さんの近くまでいけて、ほんとにほんとに楽しかったです! 最高の一日をありがとうございましたー!」


 私は志保のことが好きな一人のPで、これが解釈の正解であるとは思っていません。むしろ他のPさんがどう考えておられるか知りたいくらいなのですが、もし私の考察が一人でも多くのPさんにとって、志保の心を理解する一助となれておりましたら嬉しいです。